ビジネス書読書感想文 第4回専門家のための事業承継入門 事業承継支援コンサルティング研究会編

1.この本を選んだきっかけ

中小企業庁の調査によると、2018年度の中小企業廃業件数は前年度比3.3%増の5万5,934件となり、そのうち後継者難が原因となった廃業はなんと約6割に上っている。また、その過半数が黒字というデータが出ている。これは、経済の活力の低下、技術の衰退、雇用機会の減少等多くの問題につながる社会課題である。

そこで、さすがに行政機関や支援機関において相談窓口の設置、法律制定、制度設計等は進んでいる。ただ、企業経営者や後継者候補に正しく情報が伝わり、理解がされているかというとそうなっていないのが現実と感じている。それはプライベートでしかも死という相続にからむ問題のため話題に上げにくいテーマであるがゆえと推測している。この身近な問題にならないという現実こそが問題の根源ではないだろうか?

とあれこれ考える中、この本と出会うこととなった。

 

2.この本の要約

・事業そのものを存続、成長させるうえで、目に見えない無形の知的資産を消滅させずに維持できるかが問題となる。また、事業環境によっては社長交代は大胆な経営改革を実行する契機ともなる。

・負債の引継ぎは事業性評価と関連する問題。

・事業性に問題がある(=存続、成長させることが難しい)場合は、M&Aによるシナジー効果による問題解決もある。

M&Aにおいては、無形の知的資産(顧客関係、社長の営業力、技術、ノウハウ等)を漏れなく承継することが課題となる。

M&Aの価格は将来キャッシュフローに基づく評価が基本となる。

・事業承継において時間がかかるのは、「後継者候補探し」と「後継者教育」

・現経営者が主導すると事業承継はうまく進まないことが多い。辞めるための仕事などしたくない・・・。最大の問題は、後継者にとっては、譲られるまで待つしかないと他人事、完全なる受け身になってしまうこと。
後継者は事業承継を「後継者が価値を生み出すために、価値あるものを受け取る超友好的な乗っ取り」と考えたらどうだろうか。

・後継者が背負うことになる宿命とは?①身の丈にあっていない会社を経営しなければならないこと。②わからないことが数多く存在すること。③すぐには経営をコントロールできない状況に直面させられること。④経営上の爆弾が埋め込まれている可能性があること。

・一方、後継者は既にヒト、モノ、カネ、無形資産といった経営資源が手に入る。後継者は、与えられた現実を直視し、既存事業の価値とそれを受け継ぐ貴重なチャンスを認識すべき。

・事業承継円滑化法
 事業承継を円滑に進めるために以下の制度、特例がある。
 ①事業承継税制:非上場株式等に係る贈与税相続税の猶予制度など
 ②遺留分関する民法の特例:後継者と相続権利対象者と合意することで事業以外の遺留分について特例措置を受けられる。
 ③金融支援:事業承継に必要となる資金の融資、保証。
 ④所在地不明株主に関する会社法の特例


3.感想と考察

書籍の中で「後継者候補探し」と「後継者教育」が時間がかかるという記述があったが、実際には引渡前の「既存事業の安定、磨き上げ」こそが時間を要することではないだろうか?(コロナがこれを一層進めた)
事業に魅力があることは、後継者候補が手を上げるうえで大切な要素のひとつであり、M&Aにおいも評価価格の根源となるため重要性が高いことは言うまでもない。
ここは時間を要する部分であり、計画的に進めることを提案してきたい。

あと、現経営者主導ではなく、後継者が主導する承継の進め方に共感した。後継者には経営に関する知識の習得等も必要ではるが、前向きな姿勢と当事者意識こそ最も大事なことではないだろか?

冒頭に記載した身近な問題になりにくいという事業承継の問題について、①「既存事業の安定、磨き上げ」の時間と重要性、②後継者主導の優位性、を2本柱に自分なりに経営者や後継者へ発信してみたい。

 

小島康伸