ビジネス書 読書感想文 第1回 新規事業を成功させるPMFの教科書 栗原康太著 

1.この本を選んだきっかけ 

最近、既存サービス業で、国の補助金(事業再構築補助金)を使って新たに小売業に進出された事業者様から立上げの苦労をお聞きする機会があり、新規事業について、あれこれ調べることとなった。

そんな中、アマゾンで「PMF」という初めて目にするキーワードに出会った。書評は以下。過去に数多く、PMFせずに失敗をした経験があり、書評はすごく合点がいく内容で、おもわず購入した。

【アマゾン書評】

新規事業やDXによって各社は新しい事業の柱を模索するが
そのほとんどが収益化する前に失敗してしまう。
なぜなら、良い市場(マーケット)へ
的確なプロダクト(製品・サービス)を届けられていないからだ。

 

2.本(書籍)の要約 

(1)PMFとはなにか

新規事業を成功させる PMF(プロダクトマーケットフィット)の教科書』刊行。成長がとまらなくなるための知見を伝授!|翔泳社のプレスリリース PMF(プロダクトマーケットフィット)とは何か? PMFのシグナルとそうでないシグナルを見極める:MarkeZine(マーケジン)

顧客のニーズを満たす商品で、正しい市場(潜在的な顧客がたくさんいる市場)にいること」 

PMFが見つかる前は大きな岩を押しながら山を登っている状態だが、PMFを見つけた後は山頂を超えて大きな岩が転がるのを追いかけている状態。 

 

(2)新規事業がPMFできずに失敗する理由

①顧客ニーズを検証せずに商品をリリースしてしまう

 スタートアップの撤退要因の第1位は「市場が存在しなかった」

PMF達成に必要ないことに時間を使ってしまう

 予算作成、役員会向けの資料づくり・・・等

③商品をリリースする前に社内で議論を重ねてしまう

 新規市場への解像度高めるべきタイミングで議論の多くを使い、市場や顧客に関する情報を拾いに行かない

PMFしていないのに営業・マーケティング投資を始めてしまう

 PMFしていない状態でサイトリニューアル、広告、展示会をやっても効果はない。

⑤見かけのPMFに騙されてしまう

 創業者のマンパワーで売れたものをPMFと勘違いしてしまう。

⑥安易に組織の人数を増やしてしまう

⑦意思決定や打ち手の成功確率にこわだりすぎてしまう

 新規事業の前半は精度が低い。それにもかかわらず、新規事業の立ち上げ期においても既存事業の成熟期のような精度を求めてしまうとPMF達成は遅れてしまう。

⑧競争戦略を描かずに参入してしまう

 優れたデザインのWebサイトを作っても、優れたセールスマンを揃えても、競争優位がなければ事業として持続的に儲けることはできない。

 ・既存の競合企業が満たせていないニーズはなにか

 ・自社はそのニーズをどのように満たすのか

 ・業界内で一定のシェアを取るまでに必要な条件はなにか

 ・その条件をどのような順番で達成していくのか

⑨「やってみないとわからない」という思考停止で進めてしまう

 新規事業で失敗にはやる前に調べたり、考えたりすることで回避できるものが意外にある。「顧客にインタービューする」「プロトタイプ段階で顧客に見せる」「類似事業を視察する」等

 

(3)PMFを達成するための道のり

  ~PMFを達成するための道のりをフィットジャーニーというフレームワークで説明

PMFにGTM(ゴートゥーマーケット)、Growth(グロース)のステージを加えて6つのステージで検討。

 

①CPF(カスタマープロブレムフィット)

 想定している課題を顧客が抱えているか、それがどれほど深い課題なのか、競合が存在する場合は競合が解決できない課題はなにかを検証するプロセス。できれば、バーニングニーズとばれる「髪の毛に火が付いてすぐに消すことが求められる」ような切迫したニーズや課題を特定できるのが望ましい。

 《バーニングニーズが特定できた時のシグナル》

  ・顧客が課題について話し出すと止まらなくなる

  ・商品がないにもかかわらず、発注したいと言われる

  ・商品がある場合は、いますぐに発注したいと言われる

②PSF(プロブレムソリューションフィット)

 CPFで顧客がすぐにでも解決したい課題が特定できたら、次に自分たちが提供する解決策が顧客が求めるものかどうかを検証する。

 《解決策の提示の仕方の例》

  ・営業資料やランディングページ

  ・紙芝居や動画

  ・モックやプロトタイプ

③SPF(ソリューションプロダクトタイプ)

 解決策がプロダクトとして実現可能か、商品が解決策を十分に実現できるかを検証する。

PMF(プロダクトマーケットフィット)

 商品が市場に受け入れられるかを検証する。SPFが確かめられた商品を開発・リリース。実際に販売活動を行い、商談を獲得できるのか、受注できるのか、そして、商品を利用してもらった顧客が満足してくれるのか、を検証していく。フェーズの目的は事業の成長ではなく、PMFの達成であることを意識する。

⑤GTM(ゴートゥーマーケット)

 GTMとは、自社の商品をどのような流れで顧客へ届けるかをまとめた戦略。

Growth(グロース)

 GTMのフェーズでユニットエコノミクスが成り立つチャネルを発見できたら、それを拡大再生産していく方法を考えます。いわゆるスケールのフェーズになり、営業・マーケティングへの投資だけではなく、組織の拡大に伴う採用や育成も視野に入れる必要がある。

 

(4)PMF達成の肝となるバリュープロポジション

①バリュープロポジションを固める

 ・バリュープロポジションとは?

 自社は提供できて、競合他社が提供できていない、顧客が求める独自の価値

・バリュープロポジションをつくる優先順位

 「顧客が望んでいる価値」→「自社が提供できている価値」→「競合が提供できていない価値」の優先順位。競合との違い、競合の弱点、自社の独自性に意識が行きがち

②バリュープロポジションの落とし穴

落とし穴1:自分たちの想いが先行してしまう

 「自分たちの現体験や想い」「テクノロジーの新規性」などに気を取られ、「顧客が望んでいる価値」が置き去りになってしまいがち

落とし穴2:既存のアセットに引っ張られる

 自分たちが持っているアセット(たとえば顧客データベース、技術、営業網、ノウハウなど)があるがゆえに、それらを活かそうとしてしまい、「顧客が望んでいる価値」と合致しない商品をつくってしまいがち  

落とし穴3:自社のケイパビリティが追いつかない

 「顧客が望んでいる価値」に幅広く、きめ細やかに対応できれば良いが、すべてに応えようとすると自社のケイパビリティ(企業が持つ組織的な能力)を確保できなくなる。どのセグメントの、どのニーズに応えるかという取捨選択は必須となる。

③バリュープロポジションを確かにするためのヒント

 ・「顧客が望んでいる価値に応える」=「顧客に欲しいものを聞く」ではない。

 ・自分たちのやりたいこと(Will)とバリュープロポジションの交差点を見つける≠短期的な金儲け

 

(5)新規事業の成功を左右する「解像度」

顧客や市場、競合、組織運営についての解像度が高い人が、解像度が高い領域で立ち上げると成功確率が上がる。

・解像度を高める16個の方法

 ①商品を自分で使ってみる

 ②競合商品を使ってみる

 ③インタビューする

 アンケートのような定量データだけではなく、見込み客・既存顧客の生の声を定性データとして取得する。

 ④顧客を観察する

 ⑤顧客に営業する

 本気で営業する。検討にあたって顧客がつまずくポイントや本当にお金をはらってくるのかを把握する。

 ⑥インタビューや商談などの録画試聴会

 同じ解像度を共有したまま組織を動かす。

 ⑦アンケートを取る

 ⑧ドメインエキスパートを仲間にする

 すでに高い解像度を持った人を組織に迎える。

 ⑨ペルソナを作成する

 ペルソナを決めることで各部門、各人の動きがまとまり、全体の効率があがる。ただ、PMFを達成するまでは、対象市場が変わったりするので、精度の高いペルソナは作る必要はない。

 ⑩カスタマージャーニーマップを作成する

 ペルソナと同じでPMFを達成するまで精度が高いものは必要ない。

 ⑪顧客の声の収集

 ⑫受託する

 顧客から何らかのプロジェクトを受託する

 ⑬リリースしてみる

 ⑭経営者などの意思決定者が定期的に顧客と会う

 ⑮解像度向上に責任を持つ人や部署を置く

 ⑯失敗事例も共有する 

 

(6)PMFの測り方

①ショーン・エリステスト

 「このプロダクトが使えなくなったらどう感じるか?」とユーザーに尋ねて「とても残念」「まあ残念」「あまり残念ではない」「もう使っていない」の4段階で答えてもらい計測する。

②NPS(ネットプロモータースコア)

 顧客に友人や知人におすすめしたいかどうかを尋ねて、0(まったく思わない)     から10(非常にそう思う)の11段階で評価する。

③エンゲージメント

 新規ユーザーが商品の使用を開始後、利用停止していないか、どの程度アクティブに利用しているかを分析する方法。

 

3.感想と考察 

共感する点が非常に多い本でした。

まず、(2)新規事業がPMFせずに失敗する理由のところのは、20~30年前某大企業で新規事業を企画していた時のことを思い出したのですが、9個の理由ほぼ全てが当てはまっていました。「若い時にこの本に出会いたかった!」

(3)PMFを達成するための道のりは、まずは、文中にある、バーニングニーズ=「髪の毛に火が付いてすぐに消すことが求められるような切迫したニーズ」を探し求めることが大切であり、簡単なことではないことは言うまでもありません。バーニングニーズという言葉をはじめて見ましたが、面白い表現ですね。あと、実際はきれいなステップにはならず、各ステージを行ったり来たりするのではないでしょうか?

4PMF達成の肝となるバリュープロポジションについては、事業構造(ビジネスモデル)の点検に非常に役に立つポイントだと思いました。落とし穴に記載がるような、自分たちの想いが先行し、顧客が置き去りになることはよくあるような気がします。

5)新規事業の成功を左右する「解像度」に記載がある16個の方法は示唆に富んでいると思います。「解像度を高める」という観点としても捉えられますが、バーニングニーズをさぐる、自社の改善事項を抽出する等のあらゆる課題対応のヒントととなる方法と思います。

6PMFの測り方については、「NPS(ネットプロモータースコア)」に共感しています。一般のCS調査にはない、事業の下り坂の予兆に気づき、早期に改善していくことが可能となっており、このNPSとユーザーインタビューの組み合わせこそ日常の業務改善に有効では・・・と感じております。

以上、各章ごとにコメントしましたが、もっとも示唆を受けたのは、すごく当たり前のことですが、とにかくユーザーの声を拾うこと聞くことが大切だということです。これは、BtoBでもBtoCでも同じでしょうね。

新規事業企画会議や事業改善会議などでは理屈を並べて「案」を出し、いろいろな立場の人が議論をするわけですが、ユーザーの声に勝るものはありません。

ただ、実際のところ、このユーザーの声を聞ける仕組みがある会社・組織は少ないのではないでしょうか?

先行きが不透明な世界にあって、「自社がユーザーの声を聞ける仕組みを持ちえるかどうか?」は企業競争力の源泉のひとつになるのでは?

 

小島康伸